非常ベルの音が鳴り響き、続いて何かがぶつかる音や物が壊れるような聞き慣れない衝突音がすれば、会場内はいよいよパニック状態になった。正面玄関へ向かおうと避難する人々が互いを押し合い、もつれるようにして会場を後にする。突然のことに周りは騒然としていて、スタッフもバタバタととりあえず動いているようだった。

 演目6番では何も起こらず拍子抜けしていたが、これが目的だったのだろうか?しかし未だに自分に対するアクションはない。スタッフに誘導されるギリギリまで会場内に留まり様子を見ていたが、それらしきものは何も感じられなかった。
 5番目に起きたアクシデントが、本来のプレゼントだったのだろうか?そもそも、この丸印には意味がない?そんなことを考えながらエントランスホールに出ると、マスクをした一人の女の子──と言っても、自分と同い年くらいの子が狂気にも似た奇声を発し暴れている人々を倒していた。

 あれは、扇子の子?
 間違いない。もう一人、マスクを装着した女の人が急におとなしくなった人達を静かに寝かせている。扇子の子が字守で、もう一人の子は補佐なのだろう。
 それならばと人波をかき分け、魄を鎮静化している中心人物へと走った。
 囲まれている彼女の背後に立ち声をかける。

「こいつら皆、魄にとりつかれたのか?」

 小さく「え?」と聞き返すものの、自分と同じ境遇であることを察した彼女は、肯定の言葉を返した。

「あの音声の後、ホール全体の空気が重くなったと思ったら、こんな感じに」

 あの音声?一体何のことだろうか?そのことを尋ねても、うじゃうじゃと湧き出てくる魄に邪魔をされ会話を続けることができなかった。
 キリがねーな。
 ベルトにしてあった刀のつかを手に、数秒意識を集中させる。青白い炎のような塊が刀身を現すと、字守たちに向かって伏せるよう言葉を投げた。

 一瞬の出来事だった。
 その炎の刀を回転しながら横に振るうと同時に、かまいたちのような旋風が魄たちめがけて駆け抜けた。
 突風にあおられたと思った次の瞬間には、ぱたぱたと魄たちが倒れていく。

「すごいね。兄ちゃん以外では初めて見たかも」

 起きている者が自分たちしかいないことに安堵した彼女は、のんきにもそんなことを言った。
 炎の刀身が消えた柄を再びベルトに付けながらそれに応える。

「兄ちゃん?」
「あ、えっと、伊藤智孝いとうともたか……先生?」
「え、先生と兄弟なの?」
「ううん。私が小さい時から一緒にいるから勝手にそう呼んでる」

 この少しの会話でもころころと表情が変わる彼女に親しみを抱きながらも、先程聞けなかった質問をした。

「あの音声って何?」
「あれ?あなた字守だよね?」
「今日はプライベートで来た」
「へー……なんか、すごいね」

 依頼を受けている字守なら知ってて当然なことを聞いてきた俺を不思議に思ったのだろう。バカにした様子は見せずに質問し、答えにそう感嘆した。
 そんな反応を見せるってことは、きっと彼女もプライベートで演奏会といった観賞を嗜むことをしないはずだ。俺と同じで。

「招待状っていうか、挑戦状みたいなものが来たからね。受けてみた」

 眠っている人波を掻き分け、自分の元に来た補佐の子と視線で会話をした彼女は、小さく頷いた後、躊躇いがちに口を開いた。

「もしかして、樫倉晟……くん?」




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