まずいな。あれは囮だったのかもしれない。
 建物が封鎖される10分前、スタッフ通用口から出たある男性を追って外に出た智孝は、通常ならば立ち寄らない配電装置の前で佇んでいるその様子を探っていた。
 魄がとりついてるのは間違いないが、一体何をしているんだ?
 そう不審に思うのも無理はなく、男性は装置をただ見つめている。暗がりの中、その男性が口元を緩めた時だった。あの音声が耳に届く。

 晟? 晟がここにいるのか?
 ヒントからよく知っている人物の名があげられ、一瞬気が削がれた時だった。装置の前にいた男性は、くるりと振り返り、いつの間にか手にしていた砂を投げつけてきた。
 幸いにも視界が遮られることはなく、智孝は装備していた銃を抜きとり、男性めがけて放った。
 銃弾の代わりに小さい火の玉が勢いよく飛び出し、男性の右足にくらいつく。男性はその衝撃というよりは、体からエネルギーが取り除かれる感覚に意識を閉じていった。
 何か音を立てれば即座に意識は戻るものの、放っておいても数分ほどで目が覚めることから眠っている男性に歩み寄り身元の確認をする。
 そろそろ有羽たちに連絡をとろうとするが、一向につながらないことに一抹の不安がよぎり正面玄関へと急いだ。
 的中しなくてもいい不安が起こっていることは、重く閉ざされているドアと、少々パニック状態になっている人達、鎮静化する有羽たちの姿を見てわかった。
 電気関係がアウトならば、その元をたどるか電気の通っていない出入口を探す他ない。

 先程眠った男性が傍目には何もしなかったのも、自分を外に出すためだったのかもしれないと思いながらも、依頼主からもらった地図を見て、先に手動で開く窓から入れないか試してみることにした。確か、1階の男性用トイレの窓の鍵があいていたはずだ。少々手荒な方法だが、物理的に窓を破壊することはできる。
 だが予想を裏切り、窓はいとも簡単に智孝を招き入れた。

 エントランスホールは既に大勢の人達が横たわっていて、意識も戻りつつあった。有羽と里紗だけで、この短時間この人数を相手にしたとは考えられない。
 晟だといいが。他の字守たちとの合流も考えて、有羽たちが向かったであろう控室へと足早に移動する。
 しかし、電気もついているのにこの人気ひとけのなさは一体何だろう? 本当にここはイベントホールなのかと疑うほどに、通路も店内にも気配がしなかった。
 舞台まで辿り着いた頃、ピピッと小さく電子音が鳴った。それまで使えなかった通信が、突然息を吹き返したのである。

「智孝さん、彩です。よかった。これから合流できますか?」

 女性の安堵の声が耳に届いた。




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