まさか。あの男が言っていたことは本当だったのか。
 追手から逃れた遼太朗たちが、一息ついた時だった。止血をしようと有羽の傷口を見て違和感を抱いた。確認のために服を脱がす。
 露になった肩からは、既に血が流れることはなかった。そして淡く光を放っている。
 間違いない。有羽の体の中には鬼の血が流れている。
 では一体いつから? 有羽は石と形を成している朧と契約を交わしたことはない。もしそんなことをしたのであれば、俺が気付くはずだ。
 なぜ気付かなかった? それは──そうか。そういうことだったのか。

「遼? もしかして……何か気づいちゃった?」

 顔に出ていたのか、有羽が心配そうに尋ねてきた。

「私の中にも朧があるんでしょ?」

 それに歯切れ悪く肯定すると、有羽は笑顔を向けて「大丈夫だよ」と言った。遅かれ早かれ、字守になるなら手に入れてた力だとも。
 違うんだ、有羽。それが君の望みならばよかった。だけど、そうじゃない。そうじゃないんだ。
 自らの意志でそうなるのと、強制的にそうなるのとでは意味合いが変わってくる。全く別のものになる。覚悟もそれに耐えうることができるかも、まるで違う。
 ずっと昔、まだ自分が子供だった頃、一度だけ禁について教えられたことがあった。
「人間と契りを交わしてはいけない」
 それを石となった朧との契約だと思い込んでいた。だから鬼の住む里の外に出てしまった朧を回収しているのだと思っていた。自分は人間と関わることもないと、そう思っていた。
 だけど有羽、君に出会った。
 人間と変わりなく接する仲間ができた。
 そして、いつしかその禁を忘れていた。

 少し離れた所で気配がした。風に乗って、それは複数であることを感じ取る。
 応急処置を施したとはいえ、有羽の顔色は悪い。声をかけると、力を絞り出すようにして立ち上がった。
 この流天という組織は、相当戦いの場を踏んでいるようだ。一定距離を保ったまま、自然と左へ流されていた。
 このままでは合流地点に戻ることはできない。幸いにも智孝と連絡がとれ、応援を要請した。場所については合図を送ると告げた後、有羽の状態も伝えた。

「有羽がいつ朧を手に入れたのか知っているか?」
「恐らく、俺の血が流れてる」

 一番可能性が高い答えを口にすると、智孝は「そうか」と一言だけ返し、それ以上は何も聞かなかった。

「それと、最後に戦ったあの男には気をつけろ。鬼の可能性が高い」
「何だって?」
「朧を数えていただろ? あれができるのは鬼だけだ」
「なるほどな……」
「もしそうなら、奴は生き返る。鬼は体の機能を全て停止したとしても、生き延びることができるんだ。だから」

 そこまで話したところで、後方から悲鳴に近い息が吐かれた。見ると、有羽が左足を押さえ、近くに木の枝が刺さっていた。弓矢としては不出来なそれを見て、戦慄が走る。一体どこから飛んできた? こんな威力を保ちながら。
 有羽と背中合わせに立ち、それを放った元を探す。人間も合わせて十数人か……勝てるか?
 いや、勝てるかではないな。勝たなければならない。絶対に。
 四方からの枝の矢という先制攻撃を受ける。それを薙ぎ払う目的と、智孝へ合図を送る意味を込めて朧を放った。強い光は刃となって辺りを一掃した──その時だった。
 突如現れた刀が脇腹に近い胸に深々と突き刺さった。持ち主は見えない。
 まさか──まさか、お前なのか?
 枝の矢は風で操られているのだと思っていた。だが、こんな芸当ができるのは一人しかいない。鬼の里でも恐れられ忌み嫌われてきた者──み。

 名を思い浮かべたところで意識が途切れた。
 次に目が覚めた時は、既に自分の意志で動くことが叶わなかった。

 

>>>続く

 




応援シェアをしてくれると嬉しいです♪

注意

特に記載がない場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。また小説の著作権は作者にあります。
作者以外の方による過度な引用や無断転載は禁止しており、行った場合は著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリー・スマホ携帯対応です。シェアまたはリンクして頂けると嬉しいです。

ご感想・コメント、ぜひお願いします!



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です