どうしても、ここから先が書けなかった。
 彩ちゃんに教えてもらった通り、会話文をメインに書き、その間に『地の文』を入れた。キャラ設定は既に実際の人物がいるので省いた。テーマは『浮気』。浮気をやめて欲しいからっていう気持ちが一番先にあった。
 だけど話している内にどんどんと自分を知るということが楽しくなり、自分の気持ちの変化を書き綴ろうと思った。

 それが、ここにきてパタリと途絶えた。

「その彼を選んだのは自分」「浮気をする原因が自分にもある」この二つの言葉が引っかかり、思考が止まる。危険信号を頭の中で何度も点滅させていた。
 浮気する人を選んだのは自分と口にした直後、固まってしまった私に気付いた有羽はすぐに謝ってくれた。私のことを言っているのではないと。でも配慮が足りなかったと。そして、傷つけちゃってごめんねと。
 ただ気付いたショックが大きかっただけで、傷ついたわけじゃないと本心を言うと、有羽はほんの少しだけほっとした様子を見せた。

 有羽の言っていることは、私にドンピシャで当てはまってる。シュウを彼氏にしたのは私だ。好きになったのは私。すぐ別れただの付き合っただの、二股をかけてると噂があった時も好きだったのは私なんだ。

「わざわざ浮気しそうな人を好きになるなんて、私終わってるじゃん」

 頭を抱えながら言うと、有羽は躊躇いながらもそっと声をかける。

「違うんだよ、里紗。確かに浮気しやすい人とそうじゃない人っているけど、そうじゃなくて……浮気しちゃう原因を作っていることもあるし、それを自分の中で見つけ出そうとすることが大事ってことなんだ」
「……よくわかんない」

 正直な気持ちをぶつけると、有羽はこんな例え話を始めた。

 久々のデートで、喉が渇いたと言う私にシュウが飲み物を買ってきてくれたとする。そんな時、もし「シュウが浮気しているんじゃないか?」と疑っていたとしたら、私はどう思うかってことだった。
 答え。何か後ろめたいことがあるから優しくしてくれるんじゃないかって、素直に喜べない。

「疑って見ると、いいところも全部そう見えちゃうんだよね。だから、浮気をして欲しくないなら、まずは疑って見ないことが大事」
「あー、わかるわ、それ。猜疑心は一度抱くとなかなか取り除けないもの。浮気だけでなく」

 彩ちゃんがしみじみと言った。

「原因になるっていうのはわかったけど、自分の中に見つけ出すっていうのは?」
「それはね、里紗に頑張って考えて欲しいところなんだ。私も自分なりの答えはもってるけど、今ここでそれを言うのは里紗のためにならないと思ってる。だから言わない。でも、考え方だけなら言えるよ」

 真剣な顔の有羽を見て、自然と頷いている自分がいた。それからは、その考え方を教えてもらい、今必死に考えていることだった。
『なぜ私は噂の絶えないシュウを好きになったのか?』『有羽への行動を結局許していたのはなぜか?』そういった一つ一つの『なぜ』を見つけて自分なりの答えを出す。

 初め、私がシュウを好きになったのは顔だった。
 小・中学校と有羽と同じ一般市民が通う学校に通っていたが、高校になってここの施設内にある特殊な学校へ通うことになった。
 有羽は小さい時から習い事として通う馴染みのある場所だけど、私にとっては右も左もわからない完全アウェーな世界だった。
 そこで、声をかけてくれたのがシュウだったのだ。私がシュウを好きになる理由はそれだけだ。だけど、それで十分だった。

 その内、有羽を介してどんどん親密になり、女の子の噂が絶えない人だとわかっていても好きだという気持ちが止められなくて……ダメもとで告白したらOKだったというだけの話。
 私と付き合ったら噂がなくなるかもしれないと思った。そうだといいなと思った。
 どうして? 私は、特別なんだって思いたかったから。
 でも、シュウは変わらなかった。有羽への態度も相変わらずで、結局彼女になったところで体の触れ合いがあるかないかくらいの違いしかなかった。
 それが妙に悔しくて、悲しくて、寂しくて。私って一体何なんだろうって思って。これじゃ小さい時と変わらないって思って……『小さい時と変わらないと思って』?

「そうだ。私、お父さんに自分を見てもらいたかったんだ」

 何かがストンと胸の中に落ちた。
 私が小学校低学年の時に父と母は離婚した。父はあまり働かず、代わりに母が家計を切り盛りしていた。でも母への負担はあまりにも大きく、ついに離婚。たまにかかってくる父からの電話は、母への取次役でしかなく、会話という会話はほぼなかった。
 一度、私と話してよとお願いしたのに、もう十分話したとそれすらも断られた。悔しかった。悲しかった。そして、寂しかった。
 何でお母さんばっかり。何で私じゃダメなのって、そんなことばかり想いが募った。

 ナニコレ。有羽とシュウに思ってることと同じじゃない。
 私はお母さんが好きで、お父さんからそう言われても仕方ないと思うことが多かった。
 私は有羽が好きで、シュウが有羽を好きになっても仕方ないと思ってた。
 お母さんが好きだから、お母さんを悪く言われることが嫌でたまらなかった。お父さんを恨んだこともあった。お父さんが働けばよかったのに。お母さんのことを好きなら自分が頑張ればよかったのに、お父さんのバカって。
 有羽のことが好きだから、シュウが手を出すのが悪いのに、それで女子から有羽が中傷されることが嫌でたまらなかった。何で有羽に手を出すのよ、シュウのバカって。

「何よ、これ……私、シュウにお父さんを重ねて見てただけじゃない」

 胸がつまった。苦しかった。涙が溢れ出た。
 完成途中だった私のこの小説。だけど本音を書いた。出来上がったところまでを有羽に見せたら、有羽は「里紗―、よく頑張ったね」と涙声になりながら、私をぎゅっと抱きしめた。
 背中に回された腕の温もりがじんわりと沁みて、気づいたらその温かさが涙になって表れていた。

 それから私は、父親の影を重ねて疑って見ていたことをシュウに謝った。
 そして、有羽に手を出すことで嫌がらせを受けることも話した。
 多分、話が飛んでしまったり、うまく伝えきれなかった部分があったと思う。

 でも、シュウは黙って最後まで話を聞いてくれた。
 そして、「ごめん」と謝ってくれた。

 多分、シュウは本当に知らなかっただけなんだと思う。女子特有の嫌がらせも、私がこんなことを考えていることも。
 ちゃんと話せばわかってくれる。話だって最後まで聞いてくれる。

 それからシュウは、有羽に手を出すのをやめた。

 ああ、そうか。だから有羽は言ったんだ。
「勘違いしたまま自己完結したり、我慢ばかりするのは良くない」って。シュウとちゃんと向き合えって。

 今回、小説を書くことで知った色んな私。
 これからもたまには小説を書いてみようかな。

END

 

 




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